東京地方裁判所 平成4年(ワ)6048号 判決 1993年10月01日
主文
一 被告有限会社石岡住宅は、原告に対し、金八五万二〇五四円及びこれに対する平成四年六月二五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告福島ハウジング有限会社は、原告に対し、金二〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成四年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
理由
一 当事者
原告は、貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であること、被告らはいずれも不動産関連事業等を目的とする有限会社であることは当事者間に争いがない。《証拠略》によれば、被告石岡住宅代表者清水絹代と被告福島ハウジング代表者清水治郎は夫婦であり、営業店舗も同一建物内にあることが認められる。
二 本件賃貸借契約の締結及び賃料等の支払
1 請求原因2の事実については、駐車台数の点を除いて当事者間に争いがない。
駐車台数について、原告は、営業用車両八台分の駐車場として本件駐車場を被告石岡住宅より賃借したと主張するが、被告石岡住宅は、駐車可能台数についての取り決めはないと反論している。この点について判断するに、《証拠略》によれば、本件駐車場の面積は約四〇坪であり、被告ら代表者において、右駐車場は普通車一〇台分くらいのスペースであること、原告が運送会社であり、本件駐車場を原告の営業用車両駐車場として利用する目的であつたことを認識していたこと、原告の専務取締役である遠藤一栄が本件賃貸借契約締結の際、被告石岡住宅代表者の清水絹代に対し、本件駐車場には車両八台を止めたい旨伝えたところ、右絹代はそれが可能である旨答えていることが認められる。とすれば、本件契約時に、原告、賃貸人被告石岡住宅及び媒介をした被告福島ハウジングの間では、本件駐車場には少なくとも原告の営業用車両八台分の駐車が可能であることが当然の前提となつていたということができる。
2 請求原因3の事実については、当事者間に争いはなく、同4の事実についても平成三年一〇月分の賃料の支払の点を除いて争いはない。そして、成立に争いのない甲一二号証の三によれば、原告は、平成三年九月三〇日に被告石岡住宅に同年一〇月分の賃料を振込送金している事実を認めることができる。
三 本件駐車場の状況及び原告の被告石岡住宅に対する修繕要求
《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
1 本件駐車場は、建物を取り壊した跡地であり、舗装や砂利入れ等なされることなく、若干整地した程度で原告に引き渡された。しかし、右駐車場は、雨が降ると地盤が水を含んだ状態となり、駐車車両が自力で脱出できなくなる事態が発生するようになつた。そしてその度ごとに原告の従業員が、他の駐車場から本件駐車場まで二トン車を持つていき脱出不能となつた車両を牽引せざるを得なかつた。
2 このため原告は、被告石岡住宅に対し、本件駐車場に砂利を入れるよう求めたところ、平成三年七月末ないし翌八月上旬頃、被告石岡住宅は、本件駐車場の入口付近の約二台分のスペースに砂利を入れた。
3 しかし、その後も牽引による脱出を必要とする状況が、平成三年八月に二回、九月に六回、一〇月に六回発生した。そこで、この間、訴外遠藤一栄は、被告石岡住宅代表者の清水絹代又は同社の従業員に対して、砂利を入れていない約六台分相当のスペースについても砂利を入れるよう何度か電話で催告したが結局砂利入れは行われなかつた。
四 本件賃貸借契約の解除及び本件駐車場の明渡し
請求原因7、8の事実は、《証拠略》から認めることができる。
五 被告石岡住宅の修繕義務不履行(履行遅滞)により原告の被つた損害
原告は、平成三年九月二一日以降原告が本件駐車場に二台を越えて駐車することはできなかつたと主張する。しかし、先に認定したように九月二一日以降一〇月に入つても牽引することがあつたという事実がある以上、砂利が入れられて駐車に支障のない二台分のスペース以外の約六台分のスペースに九月二一日以降も駐車したことがあつたと認めるべきであり、同日以降一〇月末までの間は必ずしも雨天の日ばかりではないことを考えあわせると、九月二一日以降は二台以下しか止めていなかつたと認めることはできない。ただ、《証拠略》によれば、本件駐車場の砂利の入れられなかつた約六台分のスペースは、雨が降ると駐車場としての役割を相当減殺されたと認めることができるので、原告の主張する同年九月二一日以降本件契約解除により明渡しが完了した同年一〇月末日までの期間、原告は、被告石岡住宅の修繕義務不履行により、少なくとも本件駐車場の約半分(約四台分)の使用ができなかつたと認めるのが相当である。右損害を金額に換算すると金二七万四六六六円(九月二一日から一〇月三一日までの本件駐車場の半分の賃料相当額)となる。
六 修繕義務を負わない旨の特約の有無(抗弁)
被告福島ハウジング代表者は、本件駐車場の賃料は、本来金五〇万円だつたが、修繕義務の免除を条件に金四〇万円(税抜き)に値下げしたと供述している。
しかし、右代表者は、本件駐車場は、普通乗用車なら一〇台分駐車可能であり、一台ごとに賃貸借契約をした場合の賃料は、金四万円又は金四万五〇〇〇円程度であると供述しているのであつて、一括で貸した方が、一台ずつ貸すより管理コストがかからないことに鑑みれば、本件賃料が特に減額されたものとは認められず、賃料減額の前提として修繕義務を負わない旨の合意があつたとする右供述は、にわかに信用することができない。
また、賃貸借契約において、賃貸人の修繕義務は、賃貸人の使用収益させる義務の一内容をなす重要なものであるから、これを免除する特約が結ばれた場合には、契約書中にその旨が明記されるのが通常である。契約に宅地建物取引主任者が立ち会つたときはなおさら右の経験則が妥当する。《証拠略》によれば、本件賃貸借契約締結時には、同社の従業員で宅地建物取引主任者である訴外庄司が立ち会つていたことが認められる。しかし《証拠略》には、被告石岡住宅の修繕義務を免除する特約の記載はない。
結局、被告石岡住宅の右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。
七 被告らの告知義務違反
被告福島ハウジング代表者尋問の結果によれば、同人は、本件駐車場をよく見ていたことが認められ、しかも被告らの代表者が夫婦であり、被告らの営業店舗が同一建物内にあることを考えあわせれば、右両代表者は、本件駐車場がぬかるみが生じやすく難点があることを認識していたか、又はこれを容易に知り得たものと考えられる。したがつて、この場合、被告石岡住宅は、賃貸人として、同福島ハウジングは、仲立人として、信義則上、本件駐車場の賃貸借契約に先立ち、前記難点を原告に告知する注意義務を負つていたと言うべきであるところ、《証拠略》によれば、被告らは、本件駐車場の問題点につき何ら告知していないことが認められる。
八 被告らの告知義務違反による原告の損害
1 《証拠略》によれば、被告らが、本件駐車場の前記瑕疵について説明していれば、原告は、本件賃貸借契約を締結することがなく、被告石岡住宅に対して前記礼金(金四一万二〇〇〇円)を、そして被告福島ハウジングに対して前記手数料(金四一万二〇〇〇円)を支払うことはなかつたものと認められる。
2 損益相殺(礼金分について)
ところで、本件賃貸借における礼金の性格は、契約期間中の本件駐車場の使用収益に対する対価の一部前払と解するのが相当である。そうだとすれば、原告が、被告石岡住宅に支払つた右礼金の内、本件駐車場の使用収益が可能であつた範囲及び期間に対応する部分については、原告は利益を享受していたというべきであるから、これを被告石岡住宅が原告に返還すべき礼金相当額中から控除するのが相当である。
《証拠略》によれば、本件賃貸借契約の契約期間は、平成三年七月一日から同五年六月三〇日までの二年間であることが認められ、そのうち七月一日から九月二〇日までは本件駐車場全部(約八台分)が使用可能であり、九月二一日から一〇月三一日までは、同駐車場の半分(約四台分)が使用可能であつたのだから、原告が支払つた礼金相当額のうち右の使用可能範囲及び期間に対応する賃料前払部分を控除すると、被告石岡住宅の前記告知義務違反によつて原告が被つた礼金分の損害額は、金三五万四七七七円となる。
3 過失相殺(礼金分及び手数料分について)
ところで、証人遠藤一栄の証言によれば、同人は、本件駐車場の前をよく通つていたこと、同人が、原告の専務取締役として、本件駐車場を現に見た上で被告石岡住宅と本件賃貸借契約を締結したことが認められる。したがつて、原告は、本件駐車場の地盤がどのような状態であるかを事前に知り得たということができる。更に、原告が運送業であり、駐車場の選定に当たつては相当の注意を払うことが期待されることも考慮すれば、原告の過失割合を五割とするのが相当である。とすると、原告が、被告らの前記告知義務違反を理由として支払いを請求しうる損害賠償額は、被告石岡住宅に対しては、金一七万七三八八円、被告福島ハウジングに対しては、金二〇万六〇〇〇円ということになる。
九 結論
以上によれば、本訴請求は、被告石岡住宅に対しては、修繕義務の不履行に基づく損害賠償として金二七万四六六六円、本件駐車場の明渡しに基づく敷金返還請求として金四〇万円、不法行為(告知義務違反)に基づく損害賠償として金一七万七三八八円の合計金八五万二〇五四円及びこれに対する平成四年六月二五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被告福島ハウジングに対しては、不法行為(告知義務違反)に基づく損害賠償として金二〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成四年六月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文、九三条一項本文、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 尾島 明 裁判官 飛沢知行)